学習塾経営,  英語教育

Chapter 77.「今、満ちてゆく」

つい先日まで、私はある女子生徒と一言も交わすことがなかった。
5年前、初めて会ったとき、彼女はまだ小学3年生だった。今では中学3年生となり、時間がどれほど速く流れたのかを、彼女を見て初めて感じた。

あの頃、授業が終わると、彼女は必ず私にべったりくっついてきて、「先生、見て!」「先生、聞いて!」と、無邪気な笑顔で甘えてきた。
でも今、その笑顔は消え、代わりに私に向けられるのはただの沈黙だった。思春期の波が、無情にも彼女の心を変えてしまったのだろう。

それでも私は諦めず、何度も何度も声をかけ続けた。
「おはよう、元気かい?」
けれど返ってくるのは、ただの無視だった。

その日々が続く中で、心の中で何度も何かが沈んでいくような思いを抱えていた。

それからしばらくして、勉強を全くしなかった男子生徒が、母親に怒られたと言ってきた。
英検の申し込みにはお金がかかる。その額は、級が上がるごとに膨れ上がり、1万円という重さに彼はきっと気づいていなかった。でもその瞬間、過去問を解いている彼の顔が、急に曇り始めたのだ。

正答率が50%を切ったその時、彼はようやく気づいた。
「このままじゃヤバい…」
その瞬間、何かが彼の中で動き出した。
私は静かに、しかし確信を込めて言った。
「しょうがないから、毎日授業をやるから、とりあえず教室に顔を出しな。」
「授業料はいらない。でも、お母さんには謝って、気合いを入れ直してきな。」

今日は日曜の午後。
あの無邪気で明るかった女子生徒が、最初は無口で、目を合わせるのが精一杯だった。
でも、少しずつ私との距離が縮まり、心が通じ始めた。
その変化に、私は目を背けられなかった。
彼女の笑顔が、少しずつ戻ってきた。

その姿は、私にとって何よりも胸を熱くさせるものだった。
自信を取り戻し、必死に問題を解くその背中を見て、私はただただ涙がこみ上げてきた。

男子生徒も、最初はスローペースで進んでいたが、次第にその目に力が宿り、やる気が満ちていくのが見て取れた。
授業が終わる頃、2人の生徒がぽつりと言った。
「先生、なんかいける気がする。」
その一言で、私の胸の奥に温かいものが溢れた。
彼らがようやく、自分を信じる力を取り戻した瞬間。

その目には、あの頃の輝きが戻っていた。
私はその光を見逃さなかった。
「それでいい。」
今、ようやく2人の生徒と私の思いが、一つになったような気がした。

あとは、テストまでの数日、彼らがどんな風に歩んでいくのか。
一歩一歩、無駄なものは何ひとつないその努力が、彼らの未来をどれほど大きく変えるのか。
私はただ、彼らを見守りながら応援し続けるだけだ。

「頑張れ、私の生徒たち。君たちなら、きっとできる。」
そして、いつか君たちが笑顔でその一歩を踏み出す日が来ることを、私は信じている。

差し入れありがとうございます🤗

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